5/12 ①カジノは日本を救うのか?

はじめに

2014年6月8日、衆議院内閣委員会において、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(いわゆる「IR推進法案」。「カジノ法案」などとも呼ばれる)」が審議入りしました。審議入りし、継続審議となった法案は、衆議院解散を経て、来期の通常国会では優先的に審議されることになります。

この「IR推進法案」、もう少しはっきり言えば「カジノ解禁」について、私たち国民の間でしっかりと議論していく必要があるとの考え方から、賛成意見、反対意見の両方をできる限り客観的に提示して、みなさんとともに「カジノ解禁」についての議論を深めていくことを目的としています。

「IR推進法案」は一部の国会議員で作る「国際観光産業振興議員連盟(IR議連)」によって進められています。このIR議連は超党派の議員連盟で、自民党が最も多いのですが、他に民主党、維新の党、次世代の党、公明党、みんなの党、生活の党などの議員が所属しています。

平成29年9月の段階では、衆参合わせて171人で構成されています。数の論理で行けば、おそらく2015年春の通常国会でこの「IR推進法案」は可決されることでしょう。しかし、この法案はあくまでも「カジノを含むIRを推進せよ」という法律です。

具体的にカジノができるまでには、まだまだ乗り越えなければならない山がいくつもあります。その山を越えるのか、越えないのかを議論する際の参考になればとおもいます。

「特定複合観光施設」とか「国際観光産業振興」とか「IR」とか、いろいろな言葉が使われていますが、その中身は完全に「カジノ」です。

現在は違法とされているカジノというギャンブルを合法化するかどうかが、議論の焦点になります。

私自身の持論ももちろんあるのですが、国民間の議論を活発にするために、ここではできる限り賛否両論を併記する形にしてあります。

もっとも、鋭い方々は言外に私の持論を読み取ってしまうかもしれません。ですが、私の考えに簡単に引きずられるのではなく、それも含めて議論の材料にしていただきたいと思っています。

カジノを解禁するにしても、しないにしても、一部の国会議員やその周辺の人々、カジノから利益を得られる企業だけの論理で決めるのではなく、あるいは抽象論、もしくは感情論で決めるのではなく、根拠と論拠に基づいた議論によって、多くの人が納得のいく形で決めてほしいと思っています。

 

第1カジノ解禁について考える

◆カジノ合法化の発端は石原慎太郎元都知事の発言

日本でカジノ解禁が言われるようになったのは、2000年に当時の東京都知事だった石原慎太郎氏が、「東京にカジノを作りたい」と公言したことがそもそもの発端でした。

やがて自民党内でも研究会ができ、議員連盟へと発展していきますが、当時、自民党内でカジノ推進の先頭に立っていた野田聖子氏が郵政民営化法案に反対したために自民党を離党し、カジノ解禁への動きは、一旦、ストップすることになりました。

当然ですが、違法であるカジノを解禁するためには、東京都だけでは無理で、国会での法改正がどうしても必要です。

その国会での動きがストップしてしまったことで、石原都知事も東京都レベルでカジノ解禁を推し進めるのは難しいと考えるようになったようです。

これで立ち消えになったかに思えたカジノ解禁ですが、すぐに新たな動きを見せるようになります。

小泉純一郎元首相が退任し、安倍晋三氏が第一次安倍内閣を組閣すると、野田聖子氏は自民党に復党することになりました。

また、この頃、シンガポールでカジノが解禁され、観光客が増え、GDPが大きく伸びたことなどもあり、カジノ解禁に向けた動きが再び活発化することになりました。2008年には民主党内にも「新時代娯楽産業健全育成プロジェクトチーム」が発足し、2010年にはまえがきでも述べた超党派の「国際観光産業振興議員連盟(IR議連)」が発足します。

このIR議連が、2011年に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(「IR推進法案」)」を公表し、2013年2月に議員立法の形で衆議院に提出されました。

この法案にはっきりと反対しているのは社民党と共産党ぐらいで、あとは条件付きで認める、少なくとも真っ向から反対はしないといった立場ですので、成立は時間の問題と言われていました。

そのため「2014年の通常国会で成立か」などと言われていましたが、現実的にはそう簡単ではなく、審議入りがやっとという状態で、成立はしませんでした。

ただ、審議入りしたことで、2015年の通常国会では優先的に審議されることになりましたので、「時間の問題」の「時間」が確実に進んだことは間違いありません。

◆「IR推進法案」成立でカジノが解禁されるわけではない

一部に勘違いされている方もいらっしゃるようですが、仮に2015年の通常国会で「IR推進法案」が可決され、成立したとしても、それによって「即カジノ解禁」となるわけではありません。この法案は、あくまでも政府に対してIR推進を促すための法案です。

成立から1年以内に、政府が施設整備のための関連法を定めることを義務付けてはいますが、「IR推進法」成立で、即、カジノが作れるようになるわけではないのです。

いわば、ようやくスタートラインから足を一歩踏み出したというイメージです。

もちろん、スタートしたかしないかの違いは大きいのですが、それだけで一気にゴールまで突き進めるというわけではないのです。

賛成意見の人も「まだまだこれから長い道のりがある」と心して取り組む必要がありますし、反対意見の人は「まだまだ阻止するための時間と機会はある」と考えて、議論をしていけばいいと思います。

◆そもそもカジノとは何か

そもそも論になりますが、「カジノ」とは何なのでしょうか。ごく簡単に表現してしまえば「賭博場」です。「ギャンブル」をする場所です。一部の例外を除き、日本ではギャンブルは刑法によって違法とされています。

「一部の例外」と書きましたが、実際には日本にもギャンブルはあります。例えば、競馬、競輪、オートレース、ボートレース(競艇)といった「公営ギャンブル」、あるいは宝くじ、スポーツ振興くじ(サッカーくじ=toto)がそれに当たります。

ただし、これらのギャンブルはまさに例外的に認められているにすぎません。

しかも、これらの例外的ギャンブルはすべて「公営」、つまり国、もしくは地方自治体が管轄する団体が主催しています。これから日本に作ろうとしているカジノは、「民営」を想定しています。つまり、民間企業が運営するギャンブル場を作るということです。

もちろん、自由にやっていいということではなく、国の管理の下で行われるのですが、それでもこれまでの「公営ギャンブル」とは一線を画す存在であることは間違いありません。

さて、では「カジノ」とは具体的にはどのようなギャンブルをするところなのでしょうか。

決まった定義があるわけではないのですが、世界のカジノを見る限り、概ね、パターンは決まっています。カジノの定番と言えば「ルーレット」「ブラックジャック」「バカラ」「スロットマシン」でしょう。

「ルーレット」とは数字が書かれた回転式の円盤を回して、その中にディーラーが球を投げ込み、どの数字のところに球が入るかを予想するギャンブルです。

数字だけでなく、赤か黒か、奇数か偶数か、あるいは複数の数字にまたがって賭けることもできます。

それぞれの掛け方に応じて、倍率も変化します。

「ブラックジャック」と「バカラ」はトランプゲームです。「ブラックジャック」はトランプの合計数字を「1」に近づけるゲーム、「バカラ」は「9」に近づけるゲームです。

「ブラックジャック」は自分でプレーするゲーム、「バカラ」はどちらが勝っかを2択で予想するゲームという違いがあります。「スロットマシン」はいまではパチンコ店にも「パチスロ」などという名で置いてあるので、知っている人も多いでしょう。

(「パチスロ」とカジノの「スロットマシン」は同じものではありませんが、大括りに言えば、「パチスロ」も「スロットマシン」の一種だと言えるでしょう)

機械にコインを入れてスイッチを押し(あるいは棒状のレバーを引き)、3つの数字や絵が揃うと、揃い方によって決められた倍率のコインが払い戻されるというものです。

機械が相手なので、自分の力ではどうにもならず、ほぼ完全に運任せのゲームと言えます。

(「パチスロ」の場合、目で見て当たりのところで止める技術を持っている人もいるそうですが、カジノの「スロットマシン」の場合、それは難しいでしょう)

それぞれ、お金を払って「チップ」や「コイン」を買います(正確には「借りる」ですが)。

これらは、いつでもお金に換金することができます。チップやコインがたくさん集まれば、大金を手にすることができますが、なくなったら終わりです。もっと遊びたければ、新たに買い足さなければなりません。

ギャンブルというものは、古今東西、「親」すなわち主催者側が儲かるようにできているので(客が必ず負けるという意味ではなく、一時的に大儲けする人が少数いる一方で、負ける人が大多数だという、全体としての勝ち負けという意味です)、多くの人が、負けるたびにチップやコインを買い足していくことになります。

これは「パチンコ」にはまる人たちが取る行動パターンと同じです。

◆パチンコはギャンブルなのか

今、パチンコの話が出ました。パチンコは、一時期の勢いはないものの、年間8兆円を売り上げる、超巨大産業の一つです。

先ほど、「例外」として認められているギャンブルの中に、このパチンコは含みませんでした。パチンコは、建前上はギャンブルではないからです。

「ギャンブルかそうでないかの境界線は、大雑把にいえば、ゲーム(賭け)に勝ったときにお金を得ることができるかどうかです。

例えば、昔の温泉街などによくあった「的当て」とか「輪投げ」などはギャンブルには入りません。ゲームに勝ったときにもらえるものがお金ではなく、景品だからです。

ゲームセンターのクレーンゲームも「ギャンブル」ではありません。同様に、もらえるものがお金ではなく「景品」だからです。

厳密な定義ではないとしても、勝っとお金がもらえるのが「ギャンブル」、景品がもらえるのは「遊技」と捉えておけば、非常にシンプルに理解できると思います。

(ただし、「遊技」といっても、いわゆる風俗営業法の規制は受けます。また、正確には刑法上、「賭博」とは「金品などを賭け、偶然性の要素を含む勝負を行い、その結果によって賭けた金品の再分配を行うもの」を言い、「金品」には「景品」も含まれると解釈できます。パチンコの場合、風俗営業法で賞品を景品として出すことが認められています)

さて、パチンコですが、もしかすると「パチンコだって、勝ったらお金がもらえるじゃないか」と思う読者もいるかもしれません。

はい。現実はそのとおりです。

パチンコはまさに「遊技」と「ギャンブル」の合間のグレーゾーンに位置する存在なのです。

2014年8月に開かれた、自民党の「時代に適した風営法を求める会」という会合で、警察庁の担当官が「パチンコで換金が行われているなど、まったく存じ上げないこと」と発言し、「建前論はやめましょう」と返されたことが話題になりましたが、このやりとりこそが、まさに今のパチンコのグレーゾーンぶりを見事に表現していると言えましょう。

昔は、パチンコの景品としてたばこやお菓子をもらう人もいたようですが、現在ではたばこやお菓子だけをパチンコの景品としてもらう人はまずいません。

パチンコ玉をパチンコ店のカウンターに持っていくと、機械で玉の数を数えたあと、何やらよくわからない不思議な板のようなものを何枚か渡されます。

その板のようなものを店外の、いかにも怪しげな(というのは主観ですが)窓口に持っていくと、その板を買い取ってくれます。

つまり、板のようなものを店外の窓口に持っていくという行為を介して、パチンコ玉を現金に換えることができるわけです(「三店方式」などと呼ばれます)。

現金を支払ってパチンコ玉を買い(これも正確には「借り」)、パチンコという賭けを行って、勝ったら(最終的には)お金がもらえるわけですから、現象だけを見る限り、パチンコも立派な「ギャンブル」だと言えます。

しかし、建前上は、パチンコはギャンブルとして扱われてはいません。パチンコ店は、あくまでも「板のようなもの」という賞品としての景品をお客に与えているだけで、現金は関与していないというのが建前です。

その景品を買い取る業者は、パチンコ店とは何の関わりもない(ということになっている)ので、ギャンブルではないという理屈です。

先ほど、パチンコがギャンブルかどうかは「グレーゾーン」だと書きましたが、はっきりしないという意味ではなく、建前上はギャンブルではないとしながらも、実質は完全にギャンブルだという意味で「グレーゾーン」なのです。

なぜこのようなことがまかり通るのかと言うと、歴史的な背景があります。

その昔、パチンコの景品の現金化に際して、いわゆる暴力団が深く関与していたと言われています(現在でも関与が噂されてはいますが)。

警察が、暴力団の関与を排除しようと「三店方式」を積極的に後押しした時期があり、そこから一気に普及しました。

以来、現在に至るまで、パチンコはグレーゾーンのまま、存在しているのです。

◆パチンコ店のようにあちこちにカジノができるわけではない

まれに、「カジノ解禁によってパチンコ客がカジノに流れ、パチンコ業界は大打撃を受けるのではないか」という論調を見ることがあります。

もちろん、その可能性は十分にありますが、私は現在のパチンコ客がそのままカジノに流れるという考え方には賛成できません。

つまり、カジノ解禁で即、パチンコ業界が衰退するとは思えません。その理由の大きなものの一つは、「カジノが解禁されたとしても、パチンコ店のように駅前や郊外のあちこちにカジノができるわけではない」ということがあります。

現在、議論されている「カジノ」は、「カジノ特区」を設定して、その特区の中だけで特別に許可を出すものです。「ここでしかカジノを運営してはいけません」という特別区域限定で許可されるのです。

正確な統計を取ったわけではありませんが、常識的に考えて、パチンコ店まで何時間もかけて出掛けていくパチンコ客はほとんどいないでしょう。

ちょっとした時間に、近所のパチンコ店に出掛けるというパターンが大半です。それほど、パチンコ店というのは、どこにでもある身近な存在なのです。

かたや、ある地域だけにしかないカジノは、パチンコ店のように気軽に出掛けられる場所ではありません。

場合によっては、スーツ着用など、服装まできちんとしなければならなくなるかもしれません。

そんなところに、短パンとサンダルでパチンコに行くような人たちが、気軽に出掛けていくようになるとは思えません。

パチンコ業界は、カジノ法成立を見越して自民党支持を強めているようですが、多少の影響はあるとしても、一気にパチンコ業界が衰退するということはなく、ある程度の棲み分けがなされるのではないかと思います。

 

 

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