5/16 ④カジノは日本を救うのか?

◆大規模な雇用が生まれる

5000億円とか1兆円などという投資額とは別に、日本に住む一般の人たちが、直接的に恩恵を被るものがあります。それは「雇用の創出」です。

カジノ解禁、カジノ施設の創設によって、そこで働く人手という需要が生まれ、大規模な雇用が生み出されるというわけです。

どのくらいの雇用が生み出されて、日本の失業率がどの程度、改善するかはカジノの規模によります。

当然のことながら、規模が大きければ大きいほど、雇用も増えることになります。

カジノの中の人材、例えばカードゲームやルーレットのディーラーなどは、経験者でないとできませんから、しばらくの間は外国人が担うことになると考えられますが、ホテルやレストランといった、カジノに付随する施設には主に日本人が雇用されるだろうと推測できます。

また、IRというのは複合施設ですから、国際会議場やアミューズメント施設といったカジノ以外の施設がいろいろとできるわけですが、そこでの働き手も主に日本人が採用されることでしょう。

そう考えると、かなりの数の雇用が創出されるのではないかと期待するのも当然です。

実際、マカオでは、サンズ・マカオがオープンした2004年をさかいに、就業者数は年々増え、失業率は下がり続けています。

2002年に、それまで政府の独占状態だったカジノを、免許制にして海外資本を含む数社に開放し、2004年頃から実際の事業が始まっていきました。

それに伴って、雇用が増え、失業率が目に見えて下がっていったのです。ちなみに、マカオでは電力使用量、水使用量も2004年以降、年々増え続けています。

こうしたデータは、日本におけるカジノの経済効果を試算する上で有効だと考える推進派も少なくありません。

ただし、逆に言うと、大きな雇用を生み出す分、失敗が許されないとも言えます。

大規模なIRが完成し、カジノを中心に施設が動き出したあとで、「赤字になったので、カジノはやめます」なんてことになったら、それこそ大量の失業者が出てしまうからです。

「試しにやってみればいい」とか「チャレンジ精神が大切だ」などと言う人がいますが、やるからには「一度始めたら、もう後戻りはできないのだ」という気持ちでやらなければならないはずです。

◆不動産価格が高騰?

経済効果の面でさらによく言われているのが、「不動産価格の高騰」です。

巨大なIR施設ができることによって、その周辺の不動産価格が上がるだろうと予想されるわけです。

これも、実際に不動産価格が上がるのか、上がるとすればどのくらい上がるのかについては、100人いれば100通りの推測をしていますので、ここで論じてもあまり意味はありません。

考えたいのは、不動産の高騰はいいことなのかという点と、仮にいいことだとしても、全国に数カ所程度のカジノ施設の周辺の不動産価格の高騰が、日本全体に好影響を及ぼすのかという点です。

バブル経済が崩壊するまで、日本には「土地神話」なるものがありました。

「不動産価格はどこまでも上がり続ける」という「神話」を、多くの人(ほとんどすべての人)が信じて疑わなかったのです。

最近でも、ヨーロッパや韓国などで不動産バブルとその崩壊がありました。

もし不動産価格が、過度に高騰してしまうと、それは「バブル」という弊害を生み出しかねません。

逆に、バブルどころか、カジノ施設周辺の不動産だけが高騰し、他の地域にはまるっきり影響を及ぼさないという可能性もあります。

どう転ぶか、予測が難しい以上、この不動産価格の高騰を過度に期待するのは危険でしょう。

「不動産価格上昇で景気も上昇。だからカジノを解禁しよう」という論理は、中立の立場から見ても、いささか乱暴な気がしますが、そのあたりもしっかりと議論していかなければなりません。

◆東京オリンピックに間に合わせる必要はあるのか

カジノの候補地として東京のお台場が有力視されていた理由の一つに、2020年のオリンピックの開催地が東京に決まったことがあります。

「2020年の東京オリンピックには、海外から多くの外国人がやってくる。彼らに日本の魅力をアピールするためにも、IR(カジノ)建設は有効だ(海外からオリンピックを見に来る外国人に、カジノをやってもらって、たくさんお金を落として行ってもらおう)」という論理のようです。

たしかに、2020年の東京オリンピックでは、世界が東京に注目することになります。

そういう意味では、「東京にカジノを」と言いたくなる人がいるのも、わからなくはありません。

私もこの論理が世論を強く引っ張るのではないかと思い、「お台場カジノで決まり」だと思っていたわけです。

ですが、現実は「お台場カジノ」はむしろ他の地域よりも、候補地としては後れを取っていると聞いていますから、世論(あるいは、カジノ誘致に関わる人たち)は、「オリンピックとカジノは関係ない」と考えていることになります。

よく考えればそのとおりです。東京オリンピックは、2020年夏のたった2週間ほどにすぎません。カジノ施設は、その2週間の間だけ儲かればいいというわけにはいきません。

そう考えると「2020年の東京オリンピック」=「お台場カジノ」とはなりませんし、「カジノは何が何でも2020年に間に合わせなければならない」ということにもなりません。

国会議員のみなさんには、たった2週間のオリンピックのために議論を急ぐのではなく、じっくりと納得のいく議論を経た上で、結論を出していただきたいものです。

◆反社会的勢力を排除する

ギャンブルには昔から、いわゆる反社会的勢力(暴力団等)との関わりをどう断つかという問題が付きものでした。

競馬のような公営ギャンブルにしても、パチンコ(パチンコは法律上はギャンブルではありませんが、実態としては完全にギャンブルです)にしても、反社会的勢力との関係を断ち切るために、多大な努力を重ねてきました。

こうした反社会的勢力の排除については、IR議連でもすでに明確に宣言しています。

2013年1月にIR議連が発表した「特定複合観光施設区域整備法案(仮称)~IR実施法案〜に関する基本的な考え方(案)」には、反社会的勢力の排除について、次のように書かれています。

カジノ施行に係わる参入要件と行為規制を厳格に規制し、関与する個人・法人の清廉潔癖性と遵法性を厳格に要求することにより、暴力団組織等による介入を完璧に排除することができる。

また、施行に係わる規則等も厳格にその履行と遵守・監視を担保する仕組みを構築すれば、カジノが犯罪の温床になるということはあり得ない。

また、カジノ管理委員会との連携により、入場者全員の本人確認を義務付けることにより、暴力団組織等に関係する者の入場を完全に排除するものとする。

わかりづらい文章ですが、要するに「暴力団を徹底的に排除するための努力を最大限行う」ということだけはわかります。

文書で表現しておかないと、暴力団との関わりを排除できない(排除すると言っても信用されない)ということなのでしょう。

なお、「暴力団等の反社会的組織は、むしろカジノ解禁に反対している。なぜなら、裏カジノが運営できなくなるからだ。カジノ反対はむしろ裏カジノ推進につながる」と主張する人もいます。

たしかに、カジノが解禁されれば、わざわざ裏でカジノをやる必要はなくなります。

裏カジノを運営している反社会的組織にとっては痛手かもしれません。「だから、カジノを合法化すべきであり、カジノ反対は裏カジノ賛成と同じだ」という論理です。

ただ、この論理にはやや飛躍と言いますか、無理があるように感じます。「裏で悪い(違法な)ことをやっている人がいるから、大っぴらにやれるように、その悪いことを合法化してしまえ」という論理はいささか乱暴です。

また、先ほど述べた「ジャンケット」のようなシステムを利用して、反社会的勢力がカジノに食い込んでくることも十分に考えられます。

ここも「結論ありき」の拙速な判断をせず、十分な議論を経たのち、誰もが納得できる対策を立てていただきたいと思います。

◆マネーロンダリング対策

先ほど触れた「マネーロンダリング」についても、「特定複合観光施設区域整備法案(仮称)~IR実施法案〜に関する基本的な考え方(案)」にはその対策が書かれています。

カジノ施設は諸外国では国際機関であるFATF(金融行動タスクフォース)勧告に基づき、疑似金融機関と位置付けられており、一定金額以上の賭け金行動をする個人の本人確認、疑わしい行為等の規制当局に対する報告義務等マネーロンダリングを防止する枠組みが法定されている。

わが国もFATF勧告に基づく制度が存在し、カジノ施設をこの中に追加することにより、先進諸外国と同等の規制によりマネーロンダリングを防止することとする。

また、マネーロンダリング対策として有効とされるカジノ施設内での現金、チップを使用しないキャッシュレスシステムについて、導入を検討することとする。

この説明を読む限りですが、カジノも一般の金融機関に準ずる形で(一般の金融機関と同様の)マネーロンダリング対策をしていくとしています。

さらに、カジノ特有の方法として、カジノ施設内で現金やチップを使用しないキャッシュレスシステムの導入を検討するとしています。

先ほども述べたように、マネーロンダリングの問題については、次でも考えていきたいと思います。

◆ギャンブル依存症対策も万全に

ギャンブルの問題で最も深刻なのは、一定程度、必ず「依存症」の人が出てきてしまうということです。

現状でも、金銭が絡んだ犯罪の動機の多くは「遊ぶ金がほしかった」というものです。

さらに、捕まった犯人のコメントの中に「盗んだ金はパチンコに使った」とか「ほとんど競馬につぎ込んだ」というものが多いことを考えると、「遊ぶ」≒「ギャンブル」であることもわかります。

あるいは、サラ金のようなところから借金をして、首が回らなくなる人たちの多くは「博打」が原因です。

「ギャンブルにのめり込んでしまって、借金までしてさらにギャンブルにお金をつぎ込んで、それでも足りずに(借金を返せなくて)犯罪にまで手を出してしまう。

そこまでいかなくても、例えば家のお金を家族に黙って持ち出して、家計を激しく圧迫してしまうというケースも少なくありません。

頭ではわかっていても、依存症になって、ギャンブルの魅力に抗えなくなってしまう人というのは、どんなギャンブルにも必ず、一定程度、存在することがわかっています。

それほど、ギャンブルというのは魅力的なのでしょう。しかし、ギャンブルで身を持ち崩したり、犯罪に走ったりしてしまう人が増えるのはやはり困ります。「そんなのは自己責任だ」と言って、突き放すわけにはいきません。

家族やその周辺の人たちも不幸になりますし、犯罪が増えれば、社会全体として治安悪化を招くことになります。

これについても、IR議連の「特定複合観光施設区域整備法案(仮称)~IR実施法案〜に関する基本的な考え方(案)」には、その対策が載っています。

  • 賭博依存症患者の増大を防止し、その対策のための機関を創設する

我が国では、既存の公営賭博等や遊技にも既に同じ社会事象が存在することが知られており、これらをも含む形での国としての対応を早急に措置することが必要である。

制度として賭博行為を認めている以上、一定の社会的セーフティーネットを構築することが当然である。

このため、公営賭博分野を含めた調査の実施と実態の把握、依存症問題対応のための国の機関を創設し、中長期的な対応策や短期的対処プログラムの策定、調査研究の奨励、治療やカウンセリング体制具備のための支援を行うこととし、その財源にはカジノからの納付金収益の一部をあてるものとする。

また、先進諸外国で制度化されている賭博依存症の症状にある顧客本人ないしはその家族の要請に基づき、当該顧客をカジノに立ち入らせることを禁止する予防措置(自己排除プログラムならびに家族強制排除プログラム)については、導入を積極的に検討するものとする。

IR議連も、賭博依存症が問題であることは認識しており、そのための対策として、依存症の実態の調査と、問題に対応するための国の機関の創設(対処プログラムの作成、治療やカウンセリング体制確立のための支援)を行うとしています。

そして、その財源にはカジノからの納付金をあてると言っています。

カジノを解禁することによって、パチンコや公営ギャンブル等も含めたギャンブル依存症の人たちのための機関を創設でき、全部まとめて、治療やカウンセリング体制を整えることができるようになるというわけです。

いいことずくめのようにも思えますが、これについても、次でもう一度、検証してみたいと思います。

 

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