5/14 ③カジノは日本を救うのか?

第2 日本にカジノを作るべき理由

◆カジノを作るべき理由は「経済効果」に尽きる

こちらでは、日本でカジノを解禁して、カジノ施設を作るべき根拠について考えていきたいと思います。

先に大筋の結論を言ってしまいますと、カジノを解禁し、カジノ施設を作るべき理由は「経済効果が大きい」の一点に尽きます。

賛成派の人は、これ以外のメリットをほとんど言っていないか、言っていてもまったくメリットになっていません。

ですから、賛成意見を考えるにはとにかく「経済効果がどれほど大きいか」を見ていくことになります。

ただし、カジノ解禁でどのくらいの経済効果が生まれるのかは、人(企業やシンクタンクも含めて)によって、見解がかなり大きくなります。

また、「経済効果」と一言で言いますが、これにはいくつかの要素が含まれていますし、税収の話なのか、国民経済(GDP)の話なのかによっても、論点が変わってきます。税収の話はわかりやすいでしょう。

ルール(税の取り方、税率など)をどうするかを決めるという話です。

実は、これはあとでも述べますが、「IR推進法案」には「税」という言葉はありません。「納付金」という表現になっているのです。

この「納付金」とカジノの「入場料」を徴収することができるとしていますので、国や地方自治体の取り分は「納付金」と「入場料」ということになります。具体的な金額(税率)はまだ何も決まっていません。

つまり、税収の部分はどうにでもなるとも言えますし、まだ何も議論できない状態であるとも言えます。

ですので、具体的に経済効果を論じるには主に「国民経済」の話になるでしょう。

「国民経済」をもう少し詳しく見ると、主に「カジノの儲け」によるお金の循環の部分と、「雇用」に関する部分があるでしょう。

日本での「カジノの儲け」は予想するしかありませんが、すでにある各国のカジノの売上や利益の数字は、ある程度、わかります。

そこから、日本の「カジノの儲け」を推測することになるのですが、その前提となる「すでにある各国のカジノ」の売り上げや利益の数字を、次で見てみることにしましょう。

◆カジノ市場を牽引するアジアのカジノ

「カジノ業界」という括りで見た場合、その成長を牽引しているのはアジアです。

前でも述べましたが、「カジノと言えばラスベガス」というのはすでに過去のイメージで、今や「カジノと言えばマカオ」なのです。

ゴールドマンサックス証券の資料によると、アジアの主なカジノの2013年の売上高は、マカオが440億ドル、シンガポールが61億ドル、韓国が27億ドルなどとなっています。

2010年の数字では、マカオの売上は235億ドルですから(ちなみに、ラスベガスは弘億ドル)、3年間で日も伸びた計算になります。

IR議連の岩屋毅幹事長(自民党)は新聞の取材に対して、「シンガポールのカジノは年7000億円ぐらいの売上があるが、日本の場合、国の規模からその2倍の約1兆5000億円の売上になるとする。そこに20%の税をかければ3000億円になる」と話していますが、この皮算用がそのとおりになるかどうかはともかく、このように他国の実例をもとに、日本での経済効果を予測していくことになるわけです。

少し話は逸れますが、IR議連の岩屋幹事長がカジノの「利益」ではなく、「売上」に税率を賭けて徴収しようとしている点には注目していいと思います。

通常、税というのは「売上」から「経費」を差し引いた「利益」にかけられるものです。ところが、岩屋幹事長は「売上」に税をかけると言っています。

要するに、消費税のようなかけ方をするのでしょう。何らかの控除がある可能性はありますが、この「売上」に税金をかけるのは、通常の税金のかけ方とは違うということを押さえておきましょう。

◆日本におけるカジノの経済効果

日本におけるカジノの経済効果を示す具体的な金額については、さまざまなところが独自に試算しています。

先ほども述べたように、それぞれ金額は異なるのですが、一応、目についた数字を挙げておくことにしましょう。

2014年7月2日号から7月10日号まで、カジノに関する連載を組んだ「東洋経済」は、日本のカジノゲーミング市場の規模を、年間2兆円程度と推計しています。

アジア各国のカジノゲーミング市場規模をみるとマカオは4.5兆円(以下、2013年)と世界第2位の規模です。なお、世界第1位は米国であり、市場規模は6.2兆円です。2000年以降、アジア全域でカジノゲーミングの市場が広がっていますが、マカオ市場はその規模、成長力において他の国々を圧倒しています。

アジアでマカオに次ぐ国はシンガポールですが、その市場規模は6000億円です。ちなみに、日本市場の出現は2020年以降となりますが、複数の施設が稼働すれば、市場規模は2兆円レベルと予想されます。

カジノ市場規模を決定する要素は、対象マーケットの個人金融資産量、施設数です。中国では合法的なカジノはマカオのみ認可、運営されています。

ゆえに、マカオの対象マーケットは中国全体であり、その経済力を反映するわけです。マカオのカジノゲーミング市場の規模と成長は、カジノ、IR施設の拡張、中国経済の成長、個人富裕層の拡大、そして、交通インフラの整備に牽引されています。

「さっきマカオが世界一だと言ったのに、この記事ではアメリカが世界一だと書いてあるではないか」と思った方へ補足しておきます。

先ほど述べたのは、ラスベガスよりもマカオの方が大きいという話(都市間の比較)です。

ここに書かれている6.2兆円というのは、アメリカ全土のカジノをすべて合わせた数字で、ラスベガス単体の数字ではありません。

さて、2013年1月2日付の産経新聞ニュースでは、大阪商業大学の佐和良作教授の試算として、カジノの経済波及効果を約7兆7000億円としています。

試算の具体的な内容は書かれていませんが、「経済波及効果」と言っていますので、売上とか市場規模に加えて、観光収益や雇用、土地の値上がりなど、周辺の経済効果も加味しているものと思われます。

ただし、大阪商業大学の学長である谷岡一郎氏は、強力なカジノ推進論者ですので、そこは割り引いて考えなければいけないかもしれません。

大阪商業大学の佐和良作教授の試算では、日本にカジノが設立された場合の経済波及効果は最大で約7兆7千億円。

佐和教授は「カジノは団塊の世代を中心とする中高年に新しい楽しみを提供できるし、訪日外国人にも楽しんでもらえる。今後の景気動向次第で、波及効果はより大きくなる可能性がある」と話している。

AFP(フランス通信社)による2013年6月1日の記事によれば、なんと1兆円超の経済波及効果があると予想されています。

米調査会社Galaviz&Coのジョナサン・ガラビズ(JonathanGalavin)氏は、全国にホテルやショッピングセンター、エンターテインメント施設を併設するカジノリゾートが全国各地で開業すれば、収益は大きく伸びると述べ、カジノ産業の規模は「制約を受けずに成長できるとしたら、長期的には1000億ドル(約9兆9000億円)近くになる」可能性があるという予想を示した。

1000億ドルを約9兆9000億円としているのは、記事掲載当時のレートでの計算であり、2014年9月現在のレートなら軽く10兆円を超えます。

「長期的には」の意味がよくわかりませんが、おそらく「累積」という意味ではなく(「累積」ならカジノをやり続ける限り、経済波及効果も増え続けるはずなので)、「将来的には」という意味でしょう。

前項でIR議連の岩屋幹事長は1兆5000億円と試算していましたので、1兆5000億円から10兆円超まで、経済効果の予測には大きなばらつきが見られます。

要するに、かなり大きな経済効果が期待できるのだが、正確な数字を予測することは不可能だということのようです。

◆5000億円以上の投資が見込まれるカジノ事業

カジノ解禁による経済効果は「税」の話を除くと、カジノによってお金の循環がよくなる(カジノの主催者が儲かることによって、その周辺へお金が流れ、お金の回転がよくなる)ことがあります。

前に、マカオのカジノはアメリカ資本が多いので、中国に流れたドルをアメリカに還流する働きがあるといいました。

つまり、カジノ事業者が儲かれば、大量のお金を循環させる作用も生みだすことになるわけです。

また、お台場カジノを推進している会社に、三井不動産や鹿島が名を連ねていることからもわかるように、カジノができるということは、いわゆる「箱もの」を扱う会社も潤うことを意味します。

まだ何も決まっていない段階なので、どのくらいの経済規模になるのかは何とも言えませんが、けっして小さな金額ではないでしょう。

三井不動産、鹿島といった大手企業が触手を伸ばしているのですから、小さな金額であるはずがありません。

その「箱もの」への投資が、大きくGDPを増やしたり、すぐに国民経済に好影響を与えるのであれば、カジノをやる意味も小さくないかもしれません。

箱ものも含めたカジノ全体への投資ということでは、シンガポールのカジノは2カ所で1兆円弱の投資がなされました(2カ所のうち、1カ所が4000億円程度、もう1カ所が5000億円程度)。

仮にお台場にカジノを作るとした場合(他の場所でも同じですが)、シンガポールの5000億円規模を上回る投資をしないと、競争という点で不利になると考えられます。

シンガポールに立派なカジノがあるのに、ちょっと新しいとはいえ、規模の小さい日本のカジノに行く理由がないからです。

では、この5000億円以上にも上るお金は、どこから出て来るのでしょうか。

国が出すことは基本的にはあり得ません。私企業に対して、税金で投資するなんてことは許されません。

当然ながら、投資は、利益を享受することになる(儲かると睨んだ)企業がすることになります。

実際、マカオでカジノ事業を営むメルコ・クラウン・エンターテインメント社は、「日本でカジノが解禁されたら、最低でも5000億円の投資をする(50億ドルから増えることはあっても、減ることはない」と公言しています。

さらに、シンガポールでカジノ施設マリーナベイ・サンズを営むラスベガス・サンズ社(アメリカ)のシェルドン・アデルソン会長は、東京にカジノができるなら1兆円を投資する用意があると述べています。「日本に外資がそんなに投資してくれるなら、ぜひやるべきじゃないか」と思うかもしれません。

景気のいい話だとは思いますが、ここにも注意が必要な点が含まれています。

◆外資参入では日本にとってはメリットが大幅に減ることになる

メルコ・クラウン・エンターテインメント社もラスベガス・サンズ社も、日本のカジノに参入する気満々ですが、日本としては注意しなければいけないことがあります。

それは、仮にカジノに大きな経済効果が期待できるとしても、事業を外資に委ねてしまったら、日本としてはメリットが大幅に減ってしまう(日本への経済効果が限定的になってしまう思ったほどの経済効果が得られない)ことにもなりかねないのです。日本のお金は日本で循環することで、日本の景気がよくなります。

景気のよさとはお金の回転の速さのことですから、その回転の円(お金の循環の輪)の外にお金が出て行ってしまうことはできるだけ避けたいところです。

もちろん、出て行ったお金がすぐに戻ってくるようなシステム(世界規模でのお金の循環の輪)がしっかりとでき上がっているのであれば別ですが、それができ上がっているとは言えませんし、少なくともかなりのタイムラグは覚悟しなければならないでしょう。

つまり、せっかくカジノで大きなお金を動かすことに成功しても、そのほとんどが外資(メルコ・クラウン・エンターテインメント社ならマカオから中国、ラスベガス・サンズ社ならアメリカ)に持っていかれてしまったのでは、日本としてのメリットは激減、いやメリットどころか、日本人がカジノで使ったお金が、そのまま外資に持っていかれるということで、日本の富が海外に流れ出て行ってしまうことになります。

では、100%国内資本でやれるのかと言えば、現実問題としては無理です。

日本にカジノはありませんから、日本企業のカジノの経験値は圧倒的に低いのです。

そもそも、カジノが解禁されたとき、カジノ運営の経験がない企業には許認可が下りないはずです。

カジノ解禁を見越して、海外でカジノ事業に参入し始めた日本企業もあるようですが、やはり経験値という点では、メルコ・クラウン・エンターテインメント社やラスベガス・サンズ社のような企業の足元にも及びません。そこで出てくる考え方が「合弁」とか「協業」といった、外資と国内企業とのコラボレーションです。

現実的には、経験値の高い外資と日本企業との合弁ということになるのでしょう。

合弁の場合、おそらく利益の配分は投資の割合に即して(株の持ち分に応じて)分けられるでしょうから、外資が1兆円を投資するのであれば、日本企業側もそれなりの投資が求められることになるでしょう。

もっとも、カジノに投資したいという企業(金融機関や一般投資家なども含めて)はたくさんあるでしょうから、お金の心配はいらないのかもしれません。

◆カジノの売上に大きく貢献する「ジャンケット」の存在

「日本でカジノが解禁されれば成功は確実」「当たりがわかっている宝くじを買うようなもの」などと楽観的に分析する人たちがいる反面、「いくつかの条件が整えば成功する」と、「カジノ反対」とまではいかないものの「慎重派」とでも言える人たちもいます。

「いくつかの条件」には例えば「立地(大都市圏にできるのか、地方にできるのか)」「税率(事業者が支払う手数料)」「払い戻し率(掛け金に対して、客とカジノ側がどのくらいの割合で分け合うか=ハウスエッジ)」などがありますが、意外に盲点なのが、「富裕層(VIP客)をいかにたくさん呼び込めるか」という点です。

第1で述べたように、マカオのカジノが飛躍的に伸びた最大の理由は、富裕層の取り込みに成功したことです。では、富裕層の取り込みに成功した最大の理由は何でしょうか。

それは「ジャンケット」と呼ばれるカジノの仲介業者を、カジノという。巨大なシステムの中にうまく取り込んだことです。

ジャンケットというのは、カジノ事業者からVIPルームの運営を任され、VIP客の送迎や宿泊、食事などの世話をする人、企業のことです。「カジノでのVIP客専用コンシェルジュとでも言えば、イメージできるでしょうか。

マカオのカジノにおけるこのジャンケットの存在は、非常に大きなものがあります。「コンシェルジュ」と書きましたが、ホテルのコンシェルジュが絶対にやらないようないくつかの重要な仕事があります。その一つが、客へのお金の信用貸しです。

つまり、カジノでの遊戯代(博打の種銭)を貸してくれるのです。

超富裕層のVIP客ですから、その金額も半端なものではありません。ギャンブルをしている横にお金を貸してくれる人がいるわけですから、「もう元手がなくなったからやめよう」ということには、なかなかなりません。

むしろ、強気になって、お金をどんどんつぎ込んでしまう人の方が多いようです。

カジノで大負けしてたいへんなことになった大手製紙会社の御曹司がいましたが、マカオにやってくる超富裕層は、カジノで大負けしてもたいして痛くもないのでしょう。

(もっとも、製紙会社の御曹司が大負けしたのは、日本の裏カジノだったという話もあります)

それはともかく、このジャンケットがいるかいないかで、カジノの売上は大きく変わってきます。

マカオではカジノの売上の7割がVIPフロア(VIPルーム)からのものです。

VIPルームの客のほとんどは当然、ジャンケットを利用していますから、売上の7割はジャンケットが握っているとも言えるわけです。

このジャンケットの制度を、カジノ解禁後の日本でも導入するかどうかで、売上は大きく変わってくるのです。「ならば、ジャンケットを取り入れればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、このジャンケットというシステムには、大きな問題もはらんでいるのです。その問題ついては、次で述べたいと思います。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました