第2章
銀行員のシビアな目線
銀行の信用格付の仕組みを知ろう
■判定の舞台裏大区分「債務者区分」小区分「格付ランク」評価
会社の現状を把握したうえで、もしお金が借りにくいなら、まずはこうした状況がなぜ生じてしまうのかを知る必要があります。そして、経営状態を少しでもよい方向へ向ける方針を決めるためには、銀行が企業にお金を貸すときの判断に利用する「自己査定」や「信用格付」の基準が、どのように決められているのかを知ることが重要です。
会社には必ず付きものの「決算書」ですが、これは払うべき税金の額を表す書類とも言い換えられます。本来、銀行から融資を受けるためのものではありません。そのため、税務署と銀行の決算書の見方はまったく異なっています。脱税を見逃さないようにしている税務署と比較すると、銀行は粉飾決算、つまり見せかけの決算書を見落とさないようにしようと考えるのです。
自己査定や信用格付(以下、「自己査定など」といいます)とは、一定の時期に銀行が取引先から受領した決算書をもとに行う、取引先ごとの判定作業を指す言葉です。これは銀行の決算作業の一環として行われます。銀行が会社を「融資できる取引先かどうか」を決めるために行っている作業だと考えられがちですが、実はそれは正確な表現ではありません。自己査定などの重要な判定に銀行内部での恣意的な評価が含まれてしまうと、銀行の信用そのものに関わる問題となってしまう可能性が生じてきます。ですから、自己査定などにおいては、個々の会社の頑張りといった漠然とした情報や事情は反映されず、貸借対照表や損益計算書などの数値を一定のルールに基づいて補正して判定していきます。あくまでもルールにのっとって処理される判定作業であると考えてください。
銀行以外が行う自己査定などの目安には注意が必要です。銀行が実際に会社に対してどのような判断をして、どの程度の補正を加えたかということは外部からほとんどわかりません。そのため、銀行の補正が加えられていない決算数値で作成されている場合がほとんどなのです。銀行以外がはじき出した自己査定などの内容と、実際の銀行のそれは必ずしも一致しないということを、覚えておいてください。
銀行は、企業を自己査定によって「債務者区分」という大きな5つの区分に振り分けることで評価しています。その区分の中でさらに細かく分類するのが「格付ランク」となります。よく「上の中」(=上ランクの中のさらに中ランク)なんていう表現がありますが、まさにこれと同じものです。
ここにおいて関係してくるのは、債務者区分のうちの上のふたつである「正常先」と「要注意先」になります。それより下がった区分の状態からでは銀行からのスムーズな借り入れは考えにくく、ここで得られる知識から状況を改善することは難しいと言わざるを得ません。それを踏まえていただいた上で、5つの債務者区分をそれぞれ見ていきましょう。
正常先
資産超過と言われる状態(負債より資産の方が大きい)かつ黒字状態の企業を指します。赤字があっても1期のみで、「経常利益の60%+減価償却費」が赤字額よりも大きくなっている必要があります。赤字の方が大きくなってしまうと、区分が下がって「要注意先」とされてしまう可能性が生じてきます。さらに先章で触れたように、資産超過で黒字を出していたとしても、
(設備投資後固定資産純資産=利益から返済しないといけない借入)
(経常利益の60%+減価償却費)
※銀行によって計算式の内容は大きく異なります
この計算が20(年)を超えてしまうようだと、やはり区分が「要注意先」に下がってしまいます。そうならないために、上の計算式を常に意識し続けることが重要となるのです。銀行によって計算式が大きく違う場合がありますが、いずれにしても資産超過で黒字であっても借入内容に対する収益力が低すぎると、要注意先と判定されます。
要注意先
資産超過でも2期連続で修正後経常利益が赤字になってしまっている企業を指します。または資産超過で黒字であっても借入に対して利益がわずかな場合、上の計算式で20(年)を超えてしまう場合がこれに相当します。他に、債務超過であってもあとわずか数年で資産超過になる場合も要注意先と判定されます。
破綻懸念先
債務超過かつ赤字。いわゆる倒産寸前の状態と考えてください。こうなると、借入はものすごく難しくなります。
実質破綻先
破産・民事再生等の法的手続きに入った状態。
破綻先
自己破産・民事再生等の法的手続きが完了した状態。
債務者区分の中で、銀行はさらに細かなランク付け「信用格付」を行います。このランクは支店で決裁できる(承認できる)融資金額や借入金利の決定などに利用されます。
■最重要ポイントはここだ!貸借対照表の補正項目(実践型チェックシート)
銀行員が企業へお金を貸すリスクを見極めるために特に注目するのは、貸借対照表です。銀行は会社から提出された貸借対照表を検証して補正することで、資産と負債の実態がどのようになっているかを判断していきます。
図の左側は、貸借対照表の状況を示しています。図の右側は、それに銀行の補正が加わった結果です。それぞれの図の左半分と右半分は、常に同じ大きさとなります。資産を減らす補正が入った場合、銀行は純資産(出資やこれまでの利益の積み重ねを表す部分)を小さくすることで、貸借対照表の左右が同額になるように調整します。つまり、補正が加えられることで「会社側が思っているより状態がよくない」という判断をされてしまう可能性があるということです。経営者は資産超過(資産の方が負債より多い状態)と思っているのに、銀行は債務超過(資産より負債の方が多い状態)と判定している場合、経営者と銀行員の「企業の安全性」に対するギャップは、とてつもなく大きくなってしまいます。
貸借対照表は決算日時点の会社の「状態」を表す、いわば健康診断結果のようなものだと考えてください。不健康な人が急に運動を始めてもすぐ効果が出ず、健康体になれないのと同じで、いきなり貸借対照表をよい状態にしようと思っても、すぐに改善することは非常に難しいのです。ですから、銀行から資産に対して大きなマイナス補正を受けるようなことを経営者がしてしまうと、そこから会社経営を立て直すのはとても時間のかかる、難しい問題となってしまいます。
例えば、経常利益が毎期5百万円の黒字である会社があったとします。「そろそろいい車に乗りたいなあ」と思った社長が、会社からお金を借りて車を買いました。仮に30百万円を会社から借りた場合、社長が会社に返済しなければ、銀行はこの社長への貸付金を「資産性なし」と判断する可能性が極めて高いのです。この場合、法人税を考慮すれば毎期同じだけ経常利益が黒字となったとしても、銀行のマイナス補正を解消するのに約10年もの年数がかかってしまうことになります。それくらい、貸借対照表のマイナス評価を取り返すのは時間がかかるということです。
銀行は、基本的にこれまでのデータを元にお金を貸すかどうかを判断します。仮にあなたが健康診断でものすごく高いコレステロール値を出してしまったとしましょう。慌てて「これからちゃんと運動します。食生活も見直します。」と言ったとしても、お医者さんはその言葉をすぐに信用してくれるでしょうか。3ヶ月後に再検査しましょう、と言われてしまうでしょう。銀行も同じです。これまでの記録を見る限り、いきなり状況が改善するという可能性は限りなく低いと判断してしまうのです。
しかし、健康診断にせよ銀行の判定にせよ、だからといって状況を放置しているだけでは、いつまでたっても改善に結びつきません。そこで、貸借対照表をセルフチェックすることで銀行による補正がどのように加えられるかを把握するための、専用チェックシートをご用意しました。「貸借対照表チェックシート」をダウンロードして印刷し、一つ一つの項目を確認してみましょう。
回答が「はい」となった項目の、プラスの金額合計とマイナスの金額合計を計算してください。計算結果がプラスとなった場合は純資産にその分が加算され、マイナスとなった場合は純資産からその分が減算されることになります。マイナス金額が多くなったとしたら、今手元にある貸借対照表には銀行によるマイナス補正が加えられる可能性があるということ。ご自身の会社の決算書を改めて見直す必要があるということが、このチェックシートによってすぐにわかるのです。
チェックシートに記載されている、資産においてのマイナス補正ポイントの例の代表的なところを見ていきましょう。例えば、前渡金未収入金・仮払金といった項目が、現金・預金や売掛金、在庫等に確実に振り替わるかどうかという点です。商品を製造(仕入)し在庫を販売してお金が入ってくる会社の場合、銀行から見た前渡金や未収入金・仮払金といった項目は、「物を作って売る」という事業のサイクルの中に入っていないのではないか?という目線で確認されます。
先にお金を払って後から原材料などが入ってくる場合の前渡金は、モノが入ってきたら在庫のところへ移動しますが、銀行はこうした前渡金はどうして発生したのか、在庫にちゃんと変わるものなのかを把握しようとします。経営者からの説明を聞いた結果、前渡金が間違いなく現金化され、在庫となると銀行員が納得して初めて、これを会社の資産として認めることができるのです。逆にきちんとした説明ができなかったり、取引を証明する書類を提出できなかったりする場合、銀行員はこれらの項目を資産からマイナスとする補正を行います。
商品が売れることで将来的に払ってもらえるはずの売掛金についても、同じ取引先から前の期と同じ金額が計上されている場合、銀行は、これを「もはや払われる可能性が低いお金」として判断します。つまり、この分を資産から差し引いてマイナス補正される可能性があるのです。
現金・預金の科目に大きな数字を加算することで資産を水増しし、経営状態をよく見せかけようとはしていないでしょうか。例えば、貸借対照表の「現金・預金」の科目に「現金3,000万円」などと記載してある場合、銀行員はこれを見逃しません。これほどの大金を預金ではなく現金で持っているなんて、一般常識的にありえないことだからです。絶対にありえないと確かめることは不可能ですが、数千万円のキャッシュをむざむざと会社の金庫に入れておく合理的な理由も存在しませんよね。銀行はこうした項目を現実ではない数字と捉え、資産として見なさないのです。
有形固定資産・繰延資産の償却は適正に行われているでしょうか。減価償却費がきちんと計上されていない場合、計上されている固定資産などが水増しされており、利益も水増しされていることになります。利益を誤魔化すことになり、減らすべき資産を減らしていないという状態です。これが分かると、その分を減らして適正な数字へと戻すための補正が必要になってくるのです。
会社が役職員や取引先等へ貸している短期(長期)貸付金について、返済の実現性はあるでしょうか。無いと判断されれば、資産としての価値がゼロと判定されます。また、会社が持つ不動産や(投資)有価証券を時価評価した際に評価損がある場合には、その分を減らして再評価することになります。不動産は、一般的には事業外の不動産(製造業企業が持つ賃貸マンションなど)を時価評価します。
これらをまとめて表現すると、銀行は資産と計上されているのに実質資産になっていない分を減らして、評価しなおすということです。
ここまでは資産の主だった補正項目をご紹介してきました。次に、会社の負債をプラスへ補正できる項目を見ていきましょう。そのひとつが、会社の代表者一族からの借り入れです。経営者一族への未払費用や、短期・長期借入金を、実態として会社の資本と考えられるかどうかが判断されます。
これらのお金は代表者から会社に貸している、もしくは支払っていない形となっているのですが、これがもし急いで返す必要性のない、動かさないままでいいお金であるなら、実際のところ会社へ出資しているのと同じであり、純資産に含まれると見なされるということです。つまり、負債が減って純資産の部分が増えることになり、プラスの評価となるのです。純資産はこれまでの利益の積み重ねと資本金からなる項目で、会社を安定させる足腰の強さとも言い換えることができる、重要なポイントです。
ここまで挙げたのは代表的な補正の例ですが、実際にチェックシートを読んでいただくと、もっと多くの項目があることに気づいていただけるでしょう。ひとつひとつの項目を確認していくことで、銀行が決算書をどのように修正する可能性があるのかを、具体的に把握していただけるのではないかと思います。
■知らないなんてもったいない?損益計算書の補正項目(実践型チェックシート)
それでは次に、損益計算書の補正について考えていきましょう。損益計算書では、実態の収益状況がどうなっているかが検証されます。損益計算書はいわば会社経営の1年間の積み重ねの記録であり、貸借対照表に現れる会社の「状態」とは違うものだと考えてください。
例えば一軒家に住んでいて車を一台所有している人がいるとします。この人の月々の「家計簿」を見ると、赤字の月もあれば黒字の月もあるでしょう。一方で、この人が家や車を持っているという「状態」が短期間にがらりと変化することは、普通あまりありませんよね。これと同じように、「家計簿」にあたる損益計算書は毎月変動しますが、どんな資産を持っているかといった会社の「状態」が毎月大きく変わることは、まずありません。これこそが、損益計算書と貸借対照表の表すところの違いだと考えてください。
損益計算書においても、銀行は補正を行います。具体的に言うと、実際にはもっと費用がかかっていて利益が少ないのではないか、と評価し直すことがあります。
それでは、費用についての補正ポイントの具体例を見ていきましょう。先ほどと同じように、「損益計算書チェックシート」をダウンロードしてください。PDFファイルをプリントアウトして、一つ一つの項目を確認していきましょう。こちらも先ほどと同じように、回答が「はい」となった項目のプラスの金額合計とマイナスの金額合計を計算してください。計算結果がプラスとなった場合は経常利益にその分が加算され、マイナスとなった場合は、経常利益からその分が減算されることになります。
減価償却費や繰延資産償却費は、それぞれのルール通りに償却されているでしょうか。これらがルールにのっとって適正に行われていない場合、隠れた費用(減価償却費の不足など)が決算書の数値に加算されて、マイナス評価となる可能性があります。
役員退職金や固定資産売却損といった、毎年発生するわけではない費用が営業外費用に計上されている場合は、正確な利益が判定しにくいので特別損失に移動させるという補正をします。結果として判定上の利益(修正後の経常利益)はプラスに補正されます。
次に収益についての補正ポイントの例を見てみましょう。保険の解約返戻金や各種助成金が営業外収益に計上されている場合は、特別利益に補正されます。一時的に発生し、毎年計上されるわけではない収益は補正して、判定上の利益(修正後の経常利益)はマイナス補正されるということです。
それでは、費用についての補正ポイントの具体例を見ていきましょう。先ほどと同じように、「損益計算書チェックシート」をダウンロードしてください。PDFファイルをプリントアウトして、一つ一つの項目を確認していきましょう。こちらも先ほどと同じように、回答が「はい」となった項目のプラスの金額合計とマイナスの金額合計を計算してください。計算結果がプラスとなった場合は経常利益にその分が加算され、マイナス
となった場合は、経常利益からその分が減算されることになります。
減価償却費や繰延資産償却費は、それ
それぞれのルール通りに償却されているでしょうか。これらがルールにのっとって適正に行われていない場合、隠れた費用(減価償却費の不足など)が決算書の数値に加算されて、マイナス評価となる可能性があります。
役員退職金や固定資産売却損といった、毎年発生するわけではない費用が営業外費用に計上されている場合は、正確な利益が判定しにくいので特別損失に移動させるという補正をします。結果として判定上の利益(修正後の経常利益)はプラスに補正されます。
次に収益についての補正ポイントの例を見てみましょう。保険の解約返戻金や各種助成金が営業外収益に計上されている場合は、特別利益に補正されます。一時的に発生し、毎年計上されるわけではない収益は補正して、判定上の利益(修正後の経常利益)はマイナス補正されるということです。
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