5/20 ③資金繰りの教科書

1⃣総論

■会社の発展に欠かせない財務戦略

■資金は「企業の血液」

「地域に愛され、親しまれ、信頼される銀行」

これは、私が大学を卒業して就職し、7年半お世話になった、大垣共立銀行の基本理念です。地方銀行の特色は地域密着です。その地域に愛され、親しまれ、信頼される。大垣共立銀行OBとなった今になって振り返ると、この理念の下に、全社員、一つにまとまっていたのだ、とあらためて思います。

「全ての中小企業を元気にする」

これは、私の会社、フィナンシャル・インスティチュートの経営理念です。フィナンシャル・インスティチュートは、全ての中小企業を元気にする、というところに会社の存在意義がある。このように、会社の経営理念は、なぜその会社が存在しなければならないか、それを示すものです。そしてその経営理念を実現するために、将来のビジョンがあります。私の会社であればそれは、「事業再生コンサルタント会社でトップとなり、日本で一番、中小企業の再生に貢献できる会社となる」です。このビジョンにより、会社を経営理念の実現に向かわせることができます。

そしてビジョン実現のために事業目標があります。それは具体的に、将来の売上目標、利益目標などで表されます。そこでその目標を達成するために、営業戦略、商品戦略、人事戦略、組織戦略などとともに、財務戦略が立てられます。

財務とは、企業における、資産・負債・損益・資金繰りなどの管理のことを言いますが、これらはいずれも、事業目標を実現するための土台となるものです。負債と資本による資金確保により、資産が形成され、その資産が土台となり売上、利益が生み出され、その過程の中で資金が回る、つまり資金が「企業の血液」となって回ることになり、これが資金繰りとなります。資金繰りが円滑に回らなければ、その企業は病気になって売上・利益を生み出す力がなくなり、そしてそれが完全に回らなくなれば、それは「企業の死」、つまり倒産、を意味します。

資金繰りを円滑に回すためには、財務戦略をしっかり立て、それを実行するために多くの戦術を行っていくことが重要となります。そして、その財務戦略とともに営業戦略、商品戦略、人事戦略、組織戦略がうまくいくことによって事業目標が達成され、それがビジョンの達成、そして経営理念の実現を可能とします。

この本では、その財務戦略の立て方を述べ、その戦略を実行するためのいろいろな戦術を述べていきます。それにより、お金が「企業の血液」となって回ることになり、売上・利益が生み出され、それが事業目標の達成、ビジョンの達成、経営理念の実現に結びついていきます。

その財務戦略もなしに、細かな戦術ばかりに走って失敗する企業が多くあります。この本を読んでいただくことにより、あなたの会社の財務戦略が作られ、資金繰りが回り、会社が発展していけることを祈っています。

経営理念と戦略の関係

経営理念

ビジョン

事業目標

戦略(・営業戦略・商品戦略・人事戦略・組織戦略・財務戦略)

 

■財務戦略の構成

■全ての戦術は資金繰りにつながる

財務戦略は、企業の事業目標達成のための財務のシナリオとなります。その構成は次のとおりとなります。

財務戦略

(調達戦術)

【負債戦術】負債として、どう資金調達を行うか。

【資本戦術】資本として、どう資金調達を行うか。

(運用戦術)

【資産戦術】

負債、資本として調達した資金を、目標の売上・利益達成に向けどう運用するか。

資産・負債として調達された資金が資産となる。

(原価・経費戦術)

【原価戦術】売上を作るためにどう原価を使うか。

【経費戦術】売上・利益を作るためどう経費を使うか。

(売上戦術)

【売上戦術】売上をどう作るか。

資産の活用と、原価・経費の使用により、売上が作られ、利益が生み出される。

資金繰り戦術

これら資金の流れが滞らないようにするにはどうするか。

 

企業の決算書を見ると、貸借対照表と損益計算書とがあります。貸借対照表の右側を見ると、負債の部と資本(純資産)の部とに分かれます。企業が売上・利益を作るには、それを作るベースとなる資産が必要であり、その資産を作るには、負債と資本とで資金を調達しなければなりません。それらをどう調達するかが、調達戦術になります。そして資産は、企業の目標の売上・利益達成のために運用されますが、どう運用するかが運用戦術となります。

そして損益計算書を見ると、売上原価と、販売費及び一般管理費(経費)とに分かれます。売上原価は売上を作るために使われるものであり、それをどう使うかが原価戦術となります。そして売上を作って利益を実現するために経費をどう使うかが経費戦術となります。

なおこの流れの中で、資金の流れが滞らないように円滑に回るようにすることがとても重要であり、その見方からすると資金繰り戦術となります。全ての戦術は、資金繰り戦術と密接につながっています。

【戦術名】負債戦術

【具体例】

  • 金融機関から融資をうまく受けることによって調達を多くできる。

・融資の申し込み方は?

・審査を通しやすくするために出すべき書類は?

・融資審査における決算書の見られ方は?

・支払サイトが延び・返済期間の考え方は?

  • 買掛金は買掛先に現金を立て替えてもらうこ!とになるため調達を多くできる。

・買掛金の支払サイトの延ばし方は?

【資金繰り戦術とのつながり】

  • 融資を受けることにより資金繰りが円滑に回りやすくなる。
  • 支払いサイトが延びることにより資金繰りが円滑に回りやすくなる。

 

【戦術名】資本戦術

【具体例】

  • 資本を多く入れることによって調達を多くできる。

・経営に支障の出ない資本の入れ方は?

【資金繰り戦術とのつながり】

  • 資本が多くなることにより資金繰りが円滑に回りやすくなる。

 

【戦術名】資産戦術

【具体例】

  • 現金を多く保有することにより、次にどの資産を購入するか選択肢を多く持つことができる。
  • 売掛金が少なければそれだけ現金が増える。

・売掛金の回収サイトの縮め方は?

・貸倒れを発生させないための方法は?

  • 土地・建物はそこから生み出される売上・利益が最大となる持ち方をしたい。

・保有すべきか保有すべきでないかをどう判断するか?

【資金繰り戦術とのつながり】

  • 現金を多く保有することにより資金繰りは回りやすくなる。
  • 回収サイトが短くなれば資金繰りは回りやすくなる。
  • 余分な土地・建物を抱えなければ資金繰りは回りやすくなる。

 

【戦術名】原価戦術

【具体例】

  • 原価を抑えれば目標利益が達成しやすくなる。

・原価を抑えるにはどうすればよいか?

【資金繰り戦術とのつながり】

  • 原価が少なければ資金繰りは回りやすくなる。

 

【戦術名】経費戦術

【具体例】

  • 経費を少なく抑えれば目標利益が達成しやすくなる。

・人件費を抑えるにはどうすればよいか?

・売上を作るための広告投資はどう考えればよいか?

【資金繰り戦術とのつながり】

  • 経費が少なければ資金繰りは回りやすくなる。

 

【戦術名】売上戦術

【具体例】

  • 営業はどう行うか?
  • 見込み客はどうやって集めるか?

【資金繰り戦術とのつながり】

  • 売上が利益を生み出し、また回収サイトが短ければ”金繰りは回りやすくなる。

 

■財務戦略で大事なこと

■利益を上げるのが一番

ある大きな取引で、売上が1,000万円、仕入が700万円、売上総利益が300万円あるとしましょう。そしてこの取引に経費が400万円かかる場合と、200万円かかる場合とを、想定してみます。損益はそれぞれ、次のとおりとなります。

          ①経費400万円の場合   ②経費200万円の場合

売上  1,000万円        1,000万円

仕入   700万円         700万円

経費   400万円         200万円

利益  ▲100万円         +100万円

売掛金の回収は早く、買掛金や経費の支払いは遅く、とはよく言われることです。例えば、①経費400万円の場合において、売掛金の回収が3月31日、買掛金の支払いが4月30日、経費の支払いも4月30日となれば、現金の動きと残高は、次のようになります。

 

                 現金の動き                          現金残高

3月31日    売掛金回収1,000万円            1,000万円

4月30日    買掛金支払700万円               ▲100万円

                 経費支払400万円

一方で、2経費200万円の場合において、逆に売掛金の回収が遅く、仕入後の買掛金の支払いや経費の支払いが早くなり、売掛金の回収が6月30日、買掛金の支払いが3月31日、経費の支払いも3月31日となれば、現金の動きと残高は、次のようになります。

 

                    現金の動き                       現金残高

3月31日     買掛金支払700万円           △900万円

                  経費支払200万円

6月30日     売掛金回収1,000万円         +100万円

 

経費400万円の前者では、確かに3月31日から4月29日までは現金を豊富に保有すること ができます。しかし結局最後は、現金残高がマイナスとなってしまいます。一方、経費 200万円の後者では、3月31日から6月29日は現金残高がマイナスとなりますが、最後の現 金残高はプラスになります。

こう考えると、売掛金の回収は早く、買掛金や経費の支払いは遅く、という資金繰り 対策を行っても、利益を上げるという対策にはかなわない、ということが分かります。 財務戦略の中では、利益を上げるためには売上戦術、原価・経費戦術を先に考えます。

そしてその戦術を実行するために、調達戦術、運用戦術が必要となります。

私の会社に相談に来る企業の中には、利益をどうやって上げるか、という対策を考えることよりも、どう資金繰りの急場をしのぐか、どううまく金融機関から融資を受けるか、という、その場しのぎの戦術ばかり聞いてくる経営者がいます。

しかしそのような企業は赤字となっています。このように、財務戦略全体から見ると、いくら急場をしのいでも、いくら金融機関から融資を受けても、結局は目先の資金繰りにしか寄与しない、ということが分かります。

 

■財務戦略実行のアクションプランを立てる

■何事も具体的に決めること

財務戦略を実行していくには、アクションプランを立てます。アクションプランとは、どのような施策を行うのか、いつその施策を行うのか、計画を立てることです。そしてそのアクションプランを実行していきます。なおアクションプランで大事なことは、次のとおりです。

・その施策を誰が行うのか、担当を決める。

・具体的な数値目標を入れる。

・その施策を実行するスケジュールと期限を決める。

・なぜその施策を行うのか、関係者全員が理解する。

・施策を実行しその後、計画通り実行できたか、実行の結果どうなったのかを定期的に検証する。

・実行できていないのなら、なぜ実行できないのか(例:人員の不足)、課題を抽出する。

 

■経営者が資金繰りを分かるようになる

■資金難に陥る経営者の特徴

(例1)工事現場で技士として15年働いた後、8年前に自分の会社を立ち上げた、職人肌のA社長。職人肌だからか新しい工具に目がなく、その時に現金があるとすぐに購入。今は4人の従業員を雇い、年間売上が6,000万円で、小さいながらもなんとか営業を続けていた。会計のことは妻に任せっぱなしで、苦手意識を強く持っている。ある時、大きい工事が入り、半金が入って一時的に現金は増えたが、そのお金で高級な社用車を買おうと車屋を回った。しかしそれを知った妻に「あなた、まだ分からないの!」と怒られた。

(例2)10年間トップセールスマンを続け、その営業力の自信から7年前に自分の会社を立ち上げたB社長。その営業力から会社はぐんぐん伸び、今は年商4億円。しかしもっと売上を伸ばそうと、営業マンをどんどん採用し、営業マンは20人にまで増えた。そして人件費が大きくなり赤字経営となっている。

資金繰りが厳しい企業で、特に多い経営者が、「職人肌のタイプ」「営業マンのタイプ」です。

職人肌の経営者は、確かに素晴らしい技術を持っていて、それをもとに売上を立てています。しかしお金には無頓着なタイプが多く、赤字となる仕事でも「いや、これは仕事をすることに意義がある」と言って受けてしまう経営者も中にはいます。

また売掛金の回収に無頓着で、多くの未回収売掛金が残っている、そんな企業もこういう経営者の企業には多くあります。このA社長は、職人肌でお金に無頓着なタイプであり、どうやって利益を作っていくか、その計画もなしに、いろいろなものを買ってしまいます。また資金繰り表もつけずに、ただ手元に現金が多い時期にそれを見てお金を使ってしまうので、すぐに資金繰りに窮することになります。そしてその時に「どうしよう」と悩みはじめるのです。

また営業マンタイプの経営者には、営業に自信があるから会社を立ち上げ、その営業力から、売上を大きく伸ばしていける人が多いのも事実です。しかし売上向上のための投資を後先考えずに行い、それが後で大きな赤字となって響いてくることがあります。

いずれにしても、どう利益を上げるかの経営計画、そしてどう資金調達をして資金繰りを回していくかの資金繰り計画を立てて、盤石な経営を行っていきたいところです。しかし財務・会計に苦手意識を持っていれば、赤字が何期も出たり、資金繰りが厳しくなったりして、経営が立ちゆかなくなってしまいかねません。

経営者は財務・会計が分かること、そして資金繰りを知ること。これは経営者が経営の仕事を行うために大事なことの一つです。

 

経営者が財務・会計について分かるようになろう

前期の業績は…

今後3年の損益は…

1年間の資金繰り計画は…

資金調達計画は…

 

 

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