■資金繰りを行う体制
■誰が行うのか、を決める
資金繰りを良くしていくには、多くの対策を行っていかなければなりませんが、その対策を決めるとともに重要なことは、誰が主導で行うか、その体制をしっかり決めることです。
会社によって、経理部や財務部など資金繰りのことを任せられる専門部署がある会社もあれば、専門部署がない会社もあることでしょう。
図表は、専門部署がない会社とある会社が、どのような体制で資金繰り対策を行っていくか、その例です。このように日常、どんな資金繰り対策を行うか、その項目を列記し、その項目ごとに、誰が行うのか、指示のやり方はどうするか、報告はどうするかなどを決めて、書面で記しておくとよいでしょう。
なお専門部署がない会社は、やはり社長への負担が大きくなります。しかし専門部署を抱えるということは、それだけ人を抱えなければならず、人件費がかかります。ちなみに私の会社の現在の社員数は55名ですが、創業してから、社員数が15名になった時に、経理部を構えました。このように、会社の発展段階で、いつ専門部署を作るのか、考えておくとよいでしょう。
ちなみに資金繰りが厳しい会社は、社長が資金繰りに関わる負担はとても多くなります。社長が「金策に走る」ことになり、他の仕事へかける時間が少なくなります。社長が資金繰りのことに多くの時間を使えば、他の経営のこと、売上を作ることなど、他の仕事へ割ける時間が少なくなり、それにより経営がより悪化することが多いです。悪いスパイラルに陥ってしまうことになります。
私の会社はそのような企業への資金繰り改善、事業再生コンサルティングを行いますが、それにより社長が資金繰りを心配することがなくなっていき、資金繰りのことに割く時間が少なくなり、社長が会社を良くしていくための仕事に力を入れられるようになるので、業況が回復していくことが多いです。そして利益が上がっていき、支払いができなかった取引先へも支払いを行えるようになっていきます。そういうよいスパイラルにしていきたいところです。
資金繰り対策の体制作りの例
(財務戦略を決める)
[経理部等専門部署がない会社] 社長が検討し、決める。
[経理部等専門部署がある会社] 専門部署が案を出し、社長と検討の上、社長が決める。
(資金繰り表を作る)
[経理部等専門部署がない会社] 社長が行う。
[経理部等専門部署がある会社] 専門部署が行い、社長が確認する。
(取引先との入金日、支払日設定交渉)
[経理部等専門部署がない会社] 社長が営業社員へ指示し、報告を受ける。
[経理部等専門部署がある会社] 専門部署が営業社員へ指示し、報告を受け、結果を社長に報告する。
(金融機関との新規融資交渉、日頃からの付き合い)
[経理部等専門部署がない会社] 社長が行う。
[経理部等専門部署がある会社] 専門部署が行い、社長は重要な場面で顔を出す。
(金融機関とのリスケジュール交渉)
[経理部等専門部署がない会社] 社長が行う。
[経理部等専門部署がある会社] 社長と専門部署、合わせて行う。
(支払先への支払延期、分割支払交渉)
[経理部等専門部署がない会社] 社長が行う。
[経理部等専門部署がある会社] 専門部署の指示のもと、営業社員が行い、報告を受け、結果を社長に報告する。重要な取引先へは社長が顔を出す。
■損益と収支の違い
■A社とB社を比べてみよう
「損益」とは損失・利益の略で、決算書の損益計算書や試算表で表される、「その期間の事業活動によりどれだけの利益を出せたか」というものです。
一方、「収支」とは、収入・支出の略で、「その期間でどれだけの現金の入金・支払いの動きがあったのか」を表すものです。
(A社) (千円)
売上 現金の動き 仕入 現金の動き 経費 現金の動き 現金累計
4月15日 発生
4月25日 支払 △5,000 △5,000
4月30日 発生 発生
・ 支払 △3,000 △8,000
8月31日 回収 +10,000 支払 +2,000
(B社) (千円)
売上 現金の動き 仕入 現金の動き 経費 現金の動き 現金累計
4月15日 発生
4月20日 発生
4月30日 回収 +10,000 発生
・ 支払 △3,000 +7,000
8月31日 支払 △8,000 △1,000
図表を見てみましょう。A社は、売上は上がっても、その売掛金が入金となるのが遅く、その間は資金繰りがマイナスとなる例です。例えば、ある商品を販売するものとします。4月30日に販売に成功し、売上が発生しました。しかし、売上代金はその日に回収とはなりません。一方、その商品を仕入れたのが4月15日でした。その日には仕入代金を支払いませんでした。
売上代金は売掛金となり、その回収は8月31日に行われ入金となりました。仕入代金は買掛金となり、その支払いは4月25日に行われました。また諸経費は4月30日に発生し、その日に支払いました。
そうなると、この会社の資金繰りは、はじめに現金は保有していなかったものとすると、4月25日に現金△5,000千円、4月30日に現金△8,000千円となり、8月31日の売掛金回収後、やっと現金は+2,000千円となります。同じようにB社は、4月30日に現金+7,000千円、8月31日に現金△1,000千円となります。では、損益を見てみます。
A社:売上10,000千円-仕入5,000千円-経費3,000千円=+2,000千円
B社:売上10,000千円-仕入8,000千円-経費3,000千円=△1,000千円
A社は+2,000千円の利益が上がっているのに、4月25日に△5,000千円、4月30日に△8,000千円の資金不足が発生し、8月31日にやっと+2,000千円となって資金不足は解消されます。・一方B社は、4月30日に現金は+7,000千円となり、8月31日になって△1,000千円と資金不足となります。
A社は利益が上がっているのに資金繰りが苦しい、B社は赤字が出ているのに資金繰りは8月31日になるまで楽な状態だったのです。このように、損益と収支は、全然違うものになります。A社のように利益は上がっても資金が不足してしまえば、会社は倒産してしまいかねません。これが「黒字倒産」と言われるものです。一方でB社のように損益が赤字となっても資金繰りがうまくいけば、倒産せずに済むのです。
A社は売上発生が4月30日でその入金が8月31日と、回収までの期間を4ヶ月空けてしまいました。一方で仕入の支払いまでの期間はわずか10日です。B社は売上の回収までの期間を10日とし、仕入の支払いまでの期間は4ヶ月半としました。このように、回収期間・支払期間の設定一つで、企業の資金繰りは大きく変わってしまうのです。売上を上げる営業活動の中で、期間の設定に関して無頓着な企業が多いのですが、そのような企業は資金繰りが厳しくなりがちです。
■企業は黒字でも倒産してしまう
■なぜ倒産するのか
企業は、赤字だから倒産するのではありません。資金がなくなるから倒産するのです。企業の損益とは、売上から売上原価・経費を引いたものです。しかし売上が上がっても、それが入金になるとは確定していません。また売上後の売掛金入金の日が、商品の仕入や、外注発生後の買掛金支払の日より前になれば、その間、資金が不足してしまいます。
例を挙げます。建設材料の卸売業A社が、顧客である建設業B社に対し、商品(建設材料)800万円の売上を6月30日に上げました。そしてA社の売掛サイト、つまり売上が発生してから回収となるまでの期間は2ヶ月で、8月31日にB社から入金がありました。一方、その商品の原価は560万円でした。その仕入は3月31日に行い、仕入先C社への買掛サイト、つまり仕入が発生してから支払いとなるまでの期間は2ヶ月で、5月31日に560万円、支払わなければなりませんでした。
この場合、商品(建設材料)の流れ、売上発生による売掛金の流れ、仕入発生による買掛金支払いの流れは次のとおりとなります。
買掛金の流れ 売掛金の流れ 商品(建設材料)の流れ 現金預金
もともと持っ 300万円
ていた現金預金
3月31日 560万円で商品 560万円で仕入
をC社から仕入 れて在庫となる。
れて買掛金が発 300万円
生する。
5月31日 560万円をC社 △260万円
へ支払う。
6月30日 800万円で商品 800万円で売り △260万円
をB社へ売り上 上げて在庫がな
げて売掛金が発 くなる。
生する。 540万円
8月31日 売掛サイトが21
ヶ月であるため
800万円がB社
より入金となる。
この場合、A社はもともと300万円の現金預金を保有していたとしても、5月31日の買掛金支払で現金預金が不足し、8月31日の売掛金回収でやっとその不足が解消されます。5月31日から8月31日までをつなぐ資金を調達しなければ、C社に対する支払いを延ばしてもらわないかぎり、この会社は資金不足となって倒産、ということになってしまいます。
このA社の利益は、売上800万円、売上原価560万円ですから、240万円の黒字となります。しかし売掛金が回収となるまでは資金が不足するため、その間につなぐ資金を確保しなければ、倒産してしまいます。これが黒字倒産の原理です。では、どうやって資金を確保するのでしょうか。もともと、この会社が資金を多く保有していれば、一時的に資金が不足しても、その間は資金が少なくなるだけで持ちこたえられます。そこで、出資者がこの会社に多くの資金を出資していればよいのですが、なかなか難しいのが現実ではないでしょうか。そのために、資金調達手段として何よりも考えられることは、金融機関からの調達、つまり銀行や信用金庫などからの調達です。また、将来いつ、資金がなくなるのか、どれぐらいなくなるのか、をあらかじめ分かっておかなければ、金融機関からいつ、どれぐらい調達すればよいか考えることはできません。そのために作らなければならないのは、資金繰り表です。資金繰り表により、将来の資金繰り計画を立てて、また金融機関からの調達計画を立てて、資金不足とならない安全な経営を行います。
なおいくら資金繰り計画をしっかり立てたとしても、損益が黒字であること、また売掛金は全て回収すること、これができなければ、いずれ資金不足に陥ってしまいます。これらが大事なのは言うまでもありません。
■貸借対照表を並べて分析する
■簡単に資金の増減を知る方法
なぜ現金預金が減少しているのか、その原因を分析すれば、今後、現金預金を増加させるためにどうしていくべきか、その対策が見えてきます。
多くの資金繰りの本では、それを知るために、資金運用表や、資金移動表という表を作って分析することを勧めていますが(資金運用表、資金移動表について、興味があれば調べてみてください)、素人にはその表を作るのは難しく、私はもっと簡単な方法をお勧めします。
それは、単純に決算書の貸借対照表を比較したい2期分並べて、その増減を見る方法です。この表であれば、単純に数字を並べ、増減を計算するだけなので、とても簡単に作ることができます。また現金預金が減少した原因はざっくり分かればよいので、単位を百万円単位にし、表を作る労力を少なくします。
平成24年3月期は当期純利益が△27百万円と大きく赤字を出してしまいました。しかしそ
ち減価償却費5百万円があり、それを引けば△22百万円、現金をまかなわなければなりません(減価償却費は現金の流出がない費用であり、現金預金の動きを見る場合は除いて考えます)。また支払手形の金額が△6百万円少なくなり、その分も合わせて現金をまかなわなければなりません。それを、金融機関からの借入金31百万円(短期借入金+長期借入金)、役員借入金4百万円で調達し、また未払費用を3百万円増やして38百万円、まかないました。そのため当期純利益から減価償却費を除いた△22百万円と支払手形減少分△6百万円を、38百万円まかなったことにより、負債と純資産の部合計で38-28=10百万円の調達ができました。・一方、資産の部に目を転じると、売掛金22百万円、棚卸資産13百万円増加し、それを足した35百万円分、現金をまかなわなければなりません。長期貸付金を1百万円、貸付先から返済してもらい、また負債と純資産の部合計で10百万円をまかなったものをあてましたが、35-1-10=24百万円、まかなうことができず、現金預金は△24百万円減少してしまいました。
なお、平成24年3月期は新規設備投資をしておらず、機械設備5百万円の減少分は、減価償却費5百万円と見合っています。
このように考えれば、まずは大きな赤字が出たこと、そして売掛金回収が長期化し売掛金が増え、また在庫も増えたこと、これらが現金預金減少の大きな要因となり、借入金でまかなおうと借入を多く行ったものの、全てまかない切れなかったことが、分かるのです。
そこから、今後は黒字回復することは必須で、それとともに売掛金の早期回収と在庫の減少を図らなければ、この会社はさらに借入金を増やすしか、現金預金をこれ以上に減少させない道はないのです。このように、貸借対照表を2期分、並べることによって、ここまで考えることができます。
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